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拾う

2011-10-31 00:41

机の上に置いてあったのは、キャップのない黒のボールペンと、おびただしい数の文字が書かれた数枚の紙。
ひたすらに書かれた般若心経は途中で不自然に終わっている。
あぁ、飽きたんだな。
がりがりと一心不乱に書いていたのにふと飽きて手を止めてしまった彼女が容易に想像できて、ちょっと笑ってしまった。
紙を綺麗にたたみ、ゴミ箱に入れる。
もっと捨てやすいこと書いてくれればいいのに。
なんだか申し訳なさを感じながら今度はボールペンを燃えないゴミとリサイクルにわけて捨てる。
 

同棲している彼女はひどい拾い癖がある。

道ばたに落ちている物に興味を持って拾って帰って来ては飽きて放置する。その飽きて放置された物を捨てるのが僕の役割だ。
無造作においてある片方だけのピアスを手に取り見つめる。彼女はたしかピアスの穴を開けてないはず、ということはコレも拾い物か。
自分に必要のない物も拾ってくる彼女が不思議でならない。そのうち人間までも拾ってきそうでちょっと怖い。
 

「これ、捨てるよ?」
 

ちょっと声を大きくして問いかけると、彼女はいつものようにふとんにくるまったまま身じろぎしただけだった。それを燃えないゴミの袋にいれ、今度はソファーに転がっていたボールをいれる。
最後にボロボロになっている黒い傘をつかんで、どうしようかとちょっと悩んでいると、ふと視線を感じて彼女の方を向く。
 

「・・・どうしたの?欲しい?」
 

壊れてるよ?と言いながら彼女に見せると、彼女はしばしぼう、とした後ようやく口を開いた。
 

「・・・んーん・・・。いらない。」
 

そう、だかわかった、だかを呟き、僕は傘をゴミ袋に入れた。
 

動揺していた。
 

手がわずかに震えた。
 

彼女がはっきり"いらない"と言い切ったのは僕の知る限りはじめてのことだった。たったそれだけのことなのに、なんだか情けないぐらいに身体が震えた。
誤魔化すように「あとは・・・」なんて呟いて探すフリをする。声が震えてなかったか心配になったが彼女は何も言わず布団に潜り込んでしまったから、それを知ることは敵わない。ゴミ袋をまとめて持ち、部屋をでる。
バタン、といやに大きな音をたてて閉まったドアによりかかり、息を深く吐き出した。
 

「ばっか、僕に言ったんじゃないって。」
 

最後にたぶん、と言いそうになって自分が嫌になる。
 

なんでも拾ってくる彼女に不安を覚えたのはいつだったか。
僕がどんどん捨てても何も言わない彼女は、いらない物でも取っておく派らしい。そのいらないものに自分が入っているのかどうかわからなくなって、物を積極的に捨て始めたのが付き合ってすぐ。がらくたを、ゴミを捨てて、お前らとは違うなんで安心して。


 

なんて醜い。

 

ため息をひとつ吐いて立ち上がる。
ゴミを捨てないと・・・・。


 


自分の存在を確かめるために。


 

 

 

END



 

 

 

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