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「あ、」
見えてしまった、見てしまった。
ごめんなさい悪気は無かったのです。
ただその真っ直ぐな言葉から目が離せなかっただけなのです。
この 恋 はしあわせに似ている
「どうしたの?」
いきなり目を見開いて立ち止まった私を心配して、フェリシアーノくんが覗き込んでくる。その柔らかな瞳に微笑んで、何でも無いことを告げると彼はその独特の雰囲気をもって緩く頷いた。
「そう?ならいいんだけど。ルートが待ってるから早く行かないと、また怒鳴られちゃうよぉ。」
眉をこれでもかと下げて言うフェリシアーノくんに頷いて、ルートビッヒさんの待つ所へと足を進める。
フェリシアーノくんの頭の上には何も浮かんでいない。素直な人なのだ。
周りのひとの頭上にふわふわと浮かぶ " 言葉 " 達をなるべく見ないように視線を下げる。そうして歩いていると、自然と先程のことが思い出されて申し訳なくなる。
「…フェリシアーノくん、」
「ん?なぁに?」
「…マリアさんは」
好きな人とかいらっしゃるんでしょうか。そんな言葉が口を突いて出そうになって慌てて口を手で抑えた。なにを聞くつもりだった。
「マリアがどうかしたの?…あ、さっき見かけたよねぇ。」
なにか用事でもあったの?と無邪気に聞いてくる彼に思わず顔を覆いたくなる。こんな時、自分がポーカーフェイスに慣れていてよかったと心から思う。なんでもないような顔をして、「いいえ、なんでもありません。」と言う私の顔は自然に笑えていただろう。
「あ、ルートだよ!遅くなってごめんねぇ~!!」
ブンブンと手を振ってフェリシアーノくんが走って行く。さて、どうしたものか。
* * * * *
私には、昔から人の考えていることがわかった。
それは読心術とは少し異なっていて、人の頭の上に浮かんでいる言葉が見えるのだ。幼い頃の私はそれが周りの人にも見えているものだと思って、どうして親には自分の考えていることがわからないのだろうかと疑問に思ったものだ。
保育園、幼稚園と学年が上がるにつれて、幼いながらも私は”コレ”は他の人には見えていないのだと知った。それと同時に、人は話していることと思っていることが違うことがあるということも知った。
口ではちやほやしている先生方が私のコトを気味悪いと思っていることも読めたし、好意、敵意、なんでも頭上に浮かんでいる言葉を見ればすぐにわかった。
そんな生活にもなれて、上手く見ないように過ごしてきたのに。
ふと目が合って、微笑んだ彼女の頭上にある言葉を見てしまった。真っ直ぐな好意の言葉。間抜けに口をぽかんと開いて立ち止まった私を彼女はどう思っただろうか。そんなことまで考え悩んでしまうのは、やっぱりあの二文字の所為。
『すき』
* * * * *
「…だ、本田?」
「あ、あぁ、すみません。」
ぼう、と考えていたら、綺麗な青い瞳がこちらを覗き込んでいた。心配そうに眉を潜めた彼の頭の上には、『めずらしいな、具合でも悪いのか?』となんとも気遣わしげな台詞が浮かんでいて自然と笑みが浮かぶ。
「大丈夫です、少しボーッとしてしまって。」
「そうか?」
未だぽんぽんと頭の上に浮かんでいる心配そうな台詞に、本当に、そんなんだからフェリシアーノくんにお母さんって呼ばれるんですよ、と言いたくなってしまう。
「それでねぇ、菊。明日ホワイトデーでしょ?」
「あぁ、そうでしたね。」
「俺たち、マリアにチョコ貰ったから、お返し、買いに行かない?」
ほわほわと笑うフェリシアーノくんに、一瞬考えていたことを見抜かれたかと思って冷や汗をかいた。そんな私をよそに、ルートビッヒさんが大きくため息をつく。
「あの人は楽しくてやっているだけだから、そんなしっかりとしたもの返さなくてもいいんだぞ?」
「とかいってぇ、ルートはもう買ってあるんでしょ?」
「…まぁ、貰ったものは返さないとだからな。」
いくら姉弟でも、と気恥ずかしそうにぼそぼそと呟くルートビッヒさんを微笑ましそうにフェリシアーノくんが見つめる。
「いいなぁ、俺もお姉ちゃん欲しかったなぁ。」
「ロマーノくんに怒られますよ?」
そんなことを話しながらバレンタインデーのお返しに何がいいか考える。そういえば、バレンタインデー当日は、ルートビッヒさん伝いで渡されたんでしたっけ。本人からは受け取ってないな、と考えてから一人恥ずかしくなった。まさか、恥ずかしくて直接私に来なかったんじゃ…なんて詮索するのは失礼でしょう。
ぐるぐると考えながらいると、あっという間に時間は過ぎてしまっていた。どうにかプレゼントは買えたものの、どうやって渡すべきかがわからない。
ひとり気まずくなって余計なことを口走ったらどうしましょう、と考えていると、フェリシアーノくんがルートビッヒさんに綺麗に包まれたプレゼントを渡す。
「それじゃあ、ルート。マリアによろしくねv」
「あぁ、しっかり渡しておく。」
姉さんも喜ぶだろう、と笑うルートビッヒさんを思わず見つめてしまう。
そうか、ルートビッヒさんに渡せばいいのか。なんて単純なこと。
それでは私も、と差しだそうとした手が意志に反して動かない。頭がぐあんぐあんと廻る。
『それで、いいのか?』
「本田?」
「…あ、私、マリアさんに用事がありますので。」
自分で渡します、そう言った自分の口が信じられない。自分の頭の上は見ることは敵わないが、きっと『信じられない』で埋め尽くされているだろう。
「そうか、わかった。」
すんなりと納得して、ルートビッヒさんはじゃあな、と言って帰ってしまった。その背中をしばし見つめていると、フェリシアーノくんがにこにこと笑って私の肩を叩く。
「頑張ってね!」
「…何をですか?」
なにも言わずに笑うフェリシアーノくんに、全てが見透かされているような気がして彼の頭の上を見るが、そこにはなにも浮かんではいなかった。
* * * * *
「よぉ!菊!」
にこにこと笑って綺麗な銀色の髪のひとが駆けてくる。「久しぶりだな、元気だったか。」なんて話しかけてくる彼女の頭上を見ないようにしながら微笑んで返す。
「これ、バレンタインデーのお返しです。」
す、と彼女の前に小さな包みを差し出すと、わずかな時間の後に彼女が受け取る。彼女らしくないたどたどしい動きに、少し疑問を感じた。
「…いや、ルッツから渡されなかったからよ。無いんだと思ってた。」
少し静かな声でそう呟いた彼女に思わず視線を向けると、白い肌を耳まで赤くした女のひとが立って居た。ありがとな!なんて豪快に笑って、照れ隠しをするようにバンバンと遠慮なしに私の肩を叩く。
彼女の頭上に浮かんでいる言葉を見たくなる衝動を必死に堪えて、「痛いですよ、」なんて苦笑いしながら地面を見つめていると、何かがころんと足元にぶつかる。
『 』
それは紛れもない"言葉"たちで、その淡い紅色をした文字が胸を締め付ける。
あぁ、なんて可愛らしいひと。
「…マリアさん。」
「ん?なんだ?」
まだほんのりと赤い頬をした彼女を見つめて言う。
「好きです。」
だってもう、私はこんなに暖かい言葉に囲まれている。
『しあわせ』
END