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☆ぼくが死ねないみっつの理由 -とある兵士と彼のお話-
誰かが言った。
どうしてあの国(かれ)は、未だ存在し(いき)ているのかと。
一緒に暮らし始めて早22年。あの歴史的出来事から、もうそんなに経ったのかとその日が来るたびに思い知る。
もう、22年も多く、生きている。
あの時、西ドイツ(あいつ)に事実上吸収されることとなった東ドイツ(おれ)は、死ぬことを覚悟したのは確か。俺の愛しの弟は、ただ純粋に俺が消滅しなかったことに感謝していたが、弟ほど素直ではない俺は、己の存在を疑うことしか出来なかった。
なにか、意味がある、なにか、やり残している。そんな思いを抱いて随分経った。色々なことに積極的に挑戦してみたものの、どれもしっくりいかず、親父の墓の前で途方に吾くれたときもあった。
国として存在しない俺は、何処にいるのか。
俺の目の前で消えていった、あの小さい帝国の姿が思い浮かんでは消えていく。彼の元へ行けるのなら、それはそれでいい。彼には伝えたいことが沢山ある。
ただ、俺はみつけてしまった。それが終わるまでは、きっとあちらには行けないだろう。
弟はまだ甘ちゃんだ。
人のことについては、それこそお母さんか、と思うほど口うるさい癖に、自分の事となるとなにひとつ出来やしねえ。自分の限界も知らずに、突っ走る。
誰に似たのか、きっと坊ちゃんに似たんだろう。(こう言うとあの坊ちゃんはうるさいから黙っておくが。また永遠とショパンを聴かせられるのは面倒だ。)
それに、あいつはまだ、周りの奴に助けられていることをまだわかっちゃいねぇ。
イタちゃんに対しては特に、だ。
手の掛かる、俺が支えてやっていると、思っているのだろう。例え表面上に出さなくても、心の奥底でまだ思っている。俺が言うんだから間違いねぇ。
甘い。イタちゃんがどれ程の時を過ごしてきているのか、あいつはまだわかってない。まぁ、口には出さねぇけどな!自分で気付け。俺はそこまで甘くない。
あとは、そうだな、まだ逢ってない国(やつ)がいることか。
国としての役目を終えた俺は自由に行動することが許された。外交などという面倒くさいことにもならないし、気楽なもんだ。
この間のハロウィンでは、インドと一緒に踊ったし、最近ではイギリスのとこのガキ、シーランドとも遊ぶようになった。まだまだ逢ってない奴は大勢いる、俺はそいつら全員に逢わなくちゃならねぇ。随分と長い時間が掛かってしまうだろうが、逢って、話して、どんな国なのか知らなくてはいけない。
俺は、そいつらのことを、親父と彼(あいつ)に教えたい。
弟が、ドイツが今どんな世界にいるのか教えたい。俺の口から教えてぇ。あの、小さいからだで消えた、どこか弟に似た堅物を笑わせたい。親父に褒めて貰いたい。その為なら俺はどんなことだって出来る。約束するぜ。待っててくれよな。
あー、そんなもんか?
まぁ、他にもやりてぇことはあるけどよ。あの馬鹿たちと三人で騒ぎてぇし、坊ちゃんのピアノを聞きながら、ザッハトルテを食いてぇな。日本のとこ行って、饅頭でもいいな。あれは美味い!あ、あと、" ひよこ " ?だかも食いてぇ!小鳥の形してるだなんて、格好良すぎるぜ!!
アメリカと海の時の決着もま付いてねぇし、イギリスにもう一回スコーン食べるって約束したしな。あいつ、徐々に食べれるもの作ってるんだぜ。この間は生焼けだったけどな…。まぁ、食べれるだけましだ。
あー、あの男女のこともあるしなっ!あいつ、ああ見えて泣き虫だからよ。全く、女々しくなったもんだぜ。坊ちゃんのなよなよしさがうつったんだな!ざまあねぇぜ。その癖によ、妙に強がりだから、俺に向かってよく、「早く消えなさいよ」って言うんだぜ。酷くね?いらねぇフライパン付きでよぉ。…ったく、嫌なオンナだよ。この間なんかはよ、坊ちゃんにやるって言ってた菓子を、折角俺様が味見してやったのに何も聞かずにいきなり殴りやがった。
まぁ、一番美味そうに焼けてたからな…。…謝ってなんかやらねぇけど、まぁ、クーヘンぐらいは持ってってやってもいいかな…ルッツが焼いたら。
あー、ったく、そう考えると全然時間が足りねぇなあ。俺様、忙しすぎるぜ!
まだまだ消えてなんかられねぇよ。
そういうと彼は、失礼なことを言った私を一切叱ることなく、むしろ褒めた。よくぞ聞いてくれた、とも言いたげに私の肩を数回叩き、来たときと同様に音もなく去っていった。 私は彼のその白く消えてしまいそうな背中を見つめ、敬意を持って頭を下げた。
彼は、もはや国ではなく、我が国の兄であり、親であり、世界の友である。
彼の存在理由など、必要ないのだ。
END