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いろはにほへと。

2012-01-07 21:39

暗いです。
鬱ってますね。
友達にも珍しいって言われました。
あんまりこういう話好きじゃないんですけど、ね。
学校の部活、文芸部に提出用のものなんですよ。
出しちゃっていいのかなぁ、と思いつつUPしてみました。
まぁ、大丈夫でしょう。

同級生の女の子二人が話しているだけ。。
弱者と強者

ちょっと死表現、てかほんの少しグロなので注意。
微々たるものです。全然グロくはありませんw

それでは、どうぞ


 

「いろは歌の暗号文って知ってる?」

不意に前の席の相原さんが私の方を見てそう囁く。
ざわざわと騒がしい教室の中で、ひとりお昼のお弁当を食べていた私は、突然のことに驚き、咀嚼していた鮭をごくんと音を立てて飲み込んでしまった。

「な、なに?暗号?」

咳き込みそうになりながら、やっとのことで声を吐き出すと、相原さんは口元だけで笑ってみせた。

「そう、暗号。知ってる?」

「・・・知らない。」

その無機質な黒い瞳に耐えられなくなって、私は下を向いてこの会話の終焉を願った。
もとより、友達ではないのだ。ただクラスが一緒、席が前後というだけで、これまで話すことなど無かった相手。
相原さんは女の子の勢力が大きいグループの中心にいるような子だった。
きゃあきゃあ騒ぐ女の子たちの中で、静かに微笑み、まるで母のように見守っているようなタイプ。
正直私は彼女が何を考えているのかわからなくて、苦手だった。

「知らないのかぁ、あのね、縦読みするの。」

あからさまに拒絶の態度を示している私にお構いなしに、相原さんは口元だけ歪めた顔で、話を進めていく。
私は喉に、先ほど飲み込んだ鮭の骨が刺さっているような痛みを感じ、のど元を静かに抑えた。
あぁ、ついてない。

「聞いてる?縦読みするの。」

なにも反応を示さない私にしびれ切らしたのか、相原さんが私の肩を数回叩く。
その瞬間、どうしようも無い悪寒が背中を通り過ぎ、思わず触られた肩を払いたい欲求に駆られるのを必死に抑えた。
喉では、唾を飲み込むのにしたがって鮭の骨がさらに深く刺さった。
相原さんは、ため息を一つ吐き、勝手に私の机に文字を羅列していく。

「ほら、こうするの。」

七文字一行て並べられた47文字は、なんだか居心地わるそうに私の前に歪な形でいた。
無理もない、前の席から相原さんが私が見やすいように逆さまで書いたのだから。
ほらね、とでもいうように笑う相原さんを横目でちらっと見ながら、縦読みしてみるも、『いちよらやあい』というような意味のわからない文に思わず困惑の視線を相原さんに向けてしまった。
相原さんは今度は一切笑わずに、すらすらと、七文字一行の最後の文字に薄く丸を付けていく。
その瞳の奥が暗く、深くて私は思わず逃げそうになった。
逃げたい、下を向いてはいけない、目を合わせてはいけない、逃げたい、逃げたい、逃げたい。
恐怖に駆られ、自然と奥歯が軋む。
相原さんの手がとまり、その薄桃色の唇が動く。

「ほら、こうだよ」

とんとん、と指で机を叩かれ、私は目をそちらに向けてた。

 『いろはにほへと
 ちりぬるをわか
 よたれそつねな
 らむうゐのおく
 やまけふこえて
 あさきゆめみし
 ゑひもせす』

 「ね、面白いよね。」

『とかなくてしす』

つまり、

『咎無くて死す』

ひゅう、と私の喉が音をたて、鮭の骨が空気に晒される。
厭な汗が、どろどろの汗が全身から噴き出すようだった。
なんで、どうして、知ってる。彼女がどうして知ってるのか。

「わたしねぇ、見ちゃったの。」

無情にも相原さんが、生暖かい声で私に話しかけてくる。

「昨日、駅にいたよね。わたし、見ちゃったの。」

やめて、聞きたくない。
その口を切り裂いて縫い合わせて二度と開かなくしてやりたい。

「・・・あなた、実咲のこと、ホームから突き落としたでしょ。」

隣の席の、机の上に置かれた白い菊の花が、わずかに揺れ動いた気がした。
足元がぐらぐらする。
どうして、なんで。
頭が痛くて気持ち悪くて、吐きたい。

「・・・実咲、ぐちゃぐちゃだったねぇ。」

「・・・やめて。」

「頭なんかさ、特に酷かったよね。そりゃそうか、頭から落ちたもんね。」

「・・・お願い、やめて。」

相原さんを見ることが出来なくて、必死に下を向くも、いろは歌が目に入ってくる。
こわい、違うの。違う。

「・・・とかなくてしす。」

ボソリ、と聞こえるか聞こえないか曖昧な声で相原さんが呟く。
私は頭を鈍器で殴られたかの衝撃に襲われた。
違う、私は悪くない。

「だって、実咲。私が、先輩のこと好きだって知ってるのに。
知ってるのに付き合ってたんだよ・・・?
頑張ってね、って言ってくれたのに。
応援するって言ってたのに。
全部、全部嘘だったんだよ?私は悪くない。
実咲が悪いの、実咲が、実咲が私を裏切ったんだから。」

壊れた私の口のチャックは閉まらず、喉でとどまっていた言葉がどんどんと零れ落ちていく。
喉の小骨は、衝撃で胃へと落ちていったようだ。
先ほどの苦しさが嘘のようだった。

「・・・実咲と先輩は、あなたが先輩が好きになる前から付き合ってたよ。」

「・・・え?」

「幼なじみなの。私と、実咲と先輩。
実咲と先輩は中学の時から仲がよくて、高校に上がって、2人が付き合ったって聞いて、私すごく嬉しかった。ずっと実咲の相談にのってたから。」

「う、嘘。実咲、好きな人いないって。」

「・・・本当に?本当に実咲がそう言ったの?」

「本当!!」

そう口では言いつつも、脳が勝手に過去を洗い出し始める。
嘘。絶対言ってた。
私が先輩を好きかもって言ったとき、実咲は誰なのって聞いたとき、実咲は、実咲は・・・?


 
 『私ね、先輩のことが好き、かも。』

 『え・・・?本当・・・?』

 『私が実咲に嘘つく訳ないでしょ。』

 『本気なの?』

 『実咲は好きなひといないの?』

 『わ、私は、』

 『まぁ!まぁまぁまぁ、いなくても大丈夫だって!すぐにいい人見付かるから!』

 『え、うん・・・。』

 『あーもー、どうしよ、こんなの初めてかも。実咲、応援してよね。』

 『・・・うん。』




「嘘・・・。」

「・・・いってなかったでしょ。実咲はあなたを裏切ってなんかいない。」

実咲、応援してよね。
なんてふてぶてしく言う自分の声がわんわんと頭の中に響いては鳴り止まない。
こちらに背を向けて立っている実咲の小さな、薄い背中。
それにそっと近づく私の手の平。
電車が近づくことを告げるけたたましいベルの音。
倒れていった先程まで目の前にあったもの。
わずかに歪む口元を隠すようにとっさにあげた悲鳴。
こちらを見つめる二対の黒い瞳。
その上を厭な音を立てて通り過ぎる電車。
噎びそうになる赤の匂い。
周りで上がる悲鳴。
崩れ落ち、顔を覆った手の平の下でわずかに上がった口角。

「・・・やめて。」

赤黒いなにかがこびり付いた電車の車体。
ざまあみろ、と嗤った心中。
相原さんが私の目を手で覆い、耳元で囁く。
 

「あなたが、実咲を殺したの。」



とかなくてしす。

                               

                                  END

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