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「…島田ぁ、行くぞ。」
「はい、」
目の前には孤立無援の弁天台場。あそこに真選組が、あいつらがいる。そう思うとあとは他には何もなかった。少し遠目に見えるあの砂煙は、おそらく新政府軍であろうと予想は容易についた。
無謀な弁天台場の奪還に付いてきてくれた兵はおよそ50。これでも多いくらいだ。
その痛いほどの視線を背に受けながら、隊服を翻して馬に跨がる。
「真選組 土方十四郎 推して参る!!」
士気を上げるため声高に叫ぶと、後方から歓声、前方からはざわめきがありありと聞こえて面白い。
面白い、なかなか面白い喧嘩だよ、近藤さん、総悟。
思わず口元を緩めながら馬を蹴り、敵に向かって突き進む。
敵軍からは未だにわずかなざわめきがあるものの、先程の声を聞いたからか、鉄砲隊が俺に向かって発砲してくる。
「ったく、イイ腕してやがる。」
頬を掠めた銃弾に目が自然と醒める。とにかく、隊長を殺るに限る、と視線を巡らせると、見知った顔と目が合い思わず思考が停止する。
忘れもしないあの特徴的なふざけた髪
どうして、あいつが此処に ------------------
ふ、と思考が飛んでしまった一瞬に、運悪く一発の銃弾が腹部を突き抜ける。思わぬ衝撃に舌打ちを一つ零すも、馬の上でバランスが取れなくなり振り落とされる。咳き込んだ口からは、どろりとした血の塊が零れ落ちる。
「くそったれ…」
降り注いでいた銃弾はそれを境に止んでいた。落馬した俺の元に、一人の男が馬から降りて歩み寄ってくる。
「土方…?」
いつもの死んだ瞳は何処にやったのか、赤い目を煌めかせたその銀髪の男は、まるで幽霊でも見たかのような顔でこちらを見ていた。その顔に随分懐かしい記憶が甦って思わず笑ってしまう。まだ幽霊が怖いのかよ。俺はもう怖かねーぜ、今じゃあ近藤さんや総悟だって見えやがる。楽しいもんだ。
「…よう、万事屋。」
元気してたか?なんて皮肉に笑って見せようとするも、込み上げてきた血に全てが奪い去られる。
「土方…十四郎…。」
万事屋は苦々しい顔をして俺の名を噛みしめる。あぁ、そうか、こいつは今や新政府軍の男、なのだ。もうあの頃の江戸で馬鹿みたいに張り合っていた男とは違う。
「おい、坂田ぁ…お前にイイものくれてやるよ。」
こんなのたれ死に勘弁だぜ。あっちで総悟に笑われちまう。情けなく震える腕で上体を起こし、無理矢理あぐらをかき愛刀を頭上へと掲げた。後方からは俺の名を叫ぶ声が絶えず、前方では敵軍が気遣わしげに坂田を見守る。当の坂田はこちらがまるで非道をしているかのように、痛々しげに顔を歪めていた。
「土方…」
「坂田、」
何かを口走ろうとした坂田の声を遮り、手に持った刀を自らの首元へとあてがった。鈍く光る刀身は、俺の首に食いつき皮膚に一筋の熱が走る。不意に山崎の言葉が思い出されたが、わずかに笑い消し去った。
「あばよ、」
坂田の絶望的な顔を笑いながら、俺は刀を持つ右手に力を込めた。
ぶつり、と何かが切れる音と共に、俺の世界は白く、消えた。