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生命の脈動にくちづける

2012-03-14 17:13

オリジナルキャラ
DPのきゃら
そのうちちゃんとキャラたちのお部屋つくりますので。
設定

後野 一(こうのはじめ) いっちゃん
 
   芸能人
   売れっ子 脇役 俳優
 

緑川克也(みどりかわかつや)
   今回の主人公
   定食屋を営んでいます
   いっちゃんの幼なじみ


克也×いっちゃん

ある日の日常です。
   

 

生命の脈動にくちづける


 


 テレビから聞こえてくる悲壮な叫び声に、夕食の鮭にのばそうとした箸が止まる。じっと見つめた四角い画面の中で、彼が悲しげに泣いていた。その細いたおやかな腕のなかには、黒い髪が美しい女の人が長い睫毛を震わせて静かにもたれ掛かっている。

 どうやら彼女の命は付きかけているらしい。

 次第に弱々しくなっていく反応と共に、彼の綺麗に整った眉が歪む。「死ぬなよ、」と言った声は儚く、黒目がちな瞳から零れ落ちる涙に吸い込まれて消えた。声を押し殺して涙を零す彼をじっと見つめ、俺はまた鮭に箸をのばした。
 

 「いっくん、色ッぺぇなぁ。」
 

 一六穀米と共に薄い桜色の肉を口に運んで咀嚼する。今日も美味い、なんてそっと自分を褒めてからさっきとは場面の変わったテレビへとまた意識を集中させた。
 

 彼、後野 一の演技力の幅は広い。どちらかというと脇役で活躍することの多い彼は、その静かで多彩な演技を持って、様々なドラマで存在し続けている。これは、丁度彼の25作目の作品。
 ずずっ、と薄めの味付けのわかめの味噌汁をすすりながら時計をちらりと見ると、そろそろドラマは終盤に近づく時間だった。今回のいっくんは"色っぽい"だな。なんて自分の中で勝手にジャンルわけして満足した。
 シャキシャキと音を立てる春菊を少し煩わしく思いながら、依然としてドラマを眺めていると、彼が陰のあるそれはもう色っぽい顔で主人公の男に微笑んだ。

 

 『殺してやる、』

 

 唇を舐める赤い舌が目の毒だ。
 いつの間にかギリ、と握りしめていた箸が軋む音にふと我に返って力を緩める。びくり、と身体を揺らす主人公の男を見つめる目に嫉妬が交じりそうになって無理矢理画面から目をそらした。

 好きだ、愛してる、などという告白のシーンには流石に慣れた。
 ドラマに、それこそフィクションに嫉妬なんてもうしないつもりであったのに、彼に対しては何時までも独占欲丸出しだな、と我ながら少し呆れる。
 エンドロールが流れ始めたテレビから離れ、食べ終わった食器を片付ける。泡にまみれた手で白い食器を洗っていると、自然と心が凪いでいった。

 

 なんだかやっきになってシンクの隅から隅まで綺麗に磨いていると、不意に肩口に衝撃が落ちてきて「おぉ」と随分と間の抜けた声が口から零れた。

 

 「……帰った。」
 

 心なしかむすっとしたくぐもった声が聞こえ、次いで肩口にぐいぐいと頭を押しつけられる。その子供じみた行動に、自然と笑みが零れる。
 

 「おかえり、お疲れ様。」
 

 お疲れ様だよ、まじで。ぼそっと呟いて離れない彼を腕の中に納める為に、手に付いた泡を洗い流す。青いチェックの入ったタオルで手を拭き、くるり、と身を翻して未だコートを着たままの彼を抱きしめる。
 彼は少し鬱陶しそうに身を捩らせ、俺の腕の中から逃げる。その耳がほんのりと赤くなっていて、思わず手を延ばして包み込んだ。
 

 「冷たいねぇ。」
 

 ぶすっと口を尖らせて顔を背ける彼に微笑むと、ふにゃふにゃしてんな!とよくわからない悪態をつかれる。そっと手を彼の耳朶から離すと、彼はそっけなく俺に背を向けてテレビの前にある炬燵にいそいそと入った。
 その丸くなった背中に、じわりと胸の奥から沸き上がってくるこの暖かい気持ちはきっと愛しさ。
 

 「お夜食食べる?」
 

 「…太らないのね。」
 

 大丈夫、と微笑むと、ならいいと言って今度はすっぽりと炬燵のなかに潜り込んでしまった。その小動物じみた行動にあぁ、飼いたい、なんて危険な思想が浮かび上がってくるのを頭を振ることで拭い去る。

 軽い夜食、と頭の中で考えながら冷凍庫から氷らせておいた朝の白飯を取りだす。それを電子レンジで温めながら、雑魚と鰹節、大根の葉を冷蔵庫から取りだす。軽く雑魚と刻んだ大根の葉を炒めて、温まった御飯と混ぜる。深い皿に炒めた雑魚ご飯を盛り、上にたっぷりと鰹節をのせて、鰹だしで作ったつゆを脇に添える。

 いつもの癖で乗せようとした梅干しを慌てて取り除く。確か、いっくんは梅干しが嫌いだった筈…。そのまま自分の口にほおりこみ、種をシンクに吹き出す。はしたないな、と怒られてしまいそうだと思いながら、赤い酸味に目を眇めた。

 

 「いっくん、出来たよ。」
 

 「んぅ…う…」


 
 むにゃむにゃ言って中々炬燵から出ようとしない姿に、本当に今日はお疲れなんだな、と悟って形の良い額に張り付く髪を掻き上げ、そっとこめかみに唇を押し当てる。ぴくりと動いた睫毛が頬を掠めるのがくすぐったい。
 

 唇の下で、生命が流れている。

 
 ふと目元に力が入るのを感じて、そっと唇を離しその細い肩を揺り動かす。数回瞬いて、彼が目を覚ます。零れ出そうになるあくびをかみ殺しながら、炬燵の上に置かれた食事を見て目を輝かせた。それを隣で見つめていると、ぐい、と手で顔を押しやられてしまう。
 

 「照れ屋さんだなぁ」
 

 「……」
 

 少し頬を紅く染めながら黙々と箸を進める姿を横目に、他にも何か作ろうかと腰を浮かせると、ぐい、と手を引かれてまた座り込む。
 

 「…美味しい。」
 

 ぎゅう、と握りしめられた手にしばし惚けていると、ちらりとこちらを伺ってくる瞳と目が合い自然と笑みが零れる。
 

 「ありがとう。」

 

 きっと俺は、世界一の幸せ者だ。

 

                              END
 

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