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主な小説更新の場所。 ジャンルぐっちゃ 注意書きをよく見てくださいね。 オリジナル>版権の割合で多分更新しますぐ。
" わたくしたち、"
「申し訳ございませんでした。」
媚びへつらっていると思われない程度に、誠実さを前面に押し出して深く謝罪の意を示す。そんなこと、もう慣れてしまった。
「先輩、すみません。俺の所為で…。」
青白い顔で俯く後輩に、ため息が零れそうになるのをぐっと堪えて微笑みかける。あんまり気にしないで下さい、なんて声をかけてしまって我ながら自分のお人好しには呆れてしまう。ぐっと力強い瞳で頷く後輩に、それでもまぁいいかと思い直しながら、一人すっかり遅くなってしまった昼食を取りに社外へと出た。
冬は暑くはないが日差しが痛くていけない。皮膚ガン、なんて年寄りじみたことが頭の中をよぎってため息が零れた。
「いらっしゃいませ~」
明るい声で迎えられ、窓際から一番離れた店の奥の席に腰掛けと、ふわふわと笑う店員がこちらにやってくる。
「ヴェ~、今日は遅かったねぇ。」
「えぇ、少し仕事で揉めてしまって。」
サラリーマンは大変だねぇという言葉は嫌味にも取られそうであるが、彼はそのようなつもりで言ったのではないということはわかっていた。店員はくるり、としている前髪を揺らして笑う。
「今日も、いつものかな?」
「えぇ、お願いします。」
りょうかーいと、音符でも付きそうな軽さで彼は厨房へと駆けていった。店内から唯一厨房を覗くことが出来る窓からは、この店の自慢のコックである金髪で体格の良い青年を伺うことが出来た。今日もあの真面目な眼差しで黙々と腕をふるっている。
料理が来る前に何か飲み物でも頼もうかとふと視線を巡らせると、目の前に綺麗な銀髪の青年がにやにやと笑いながら腰掛ける。
「よお、お疲れサマか?」
「まだ、一段落ってところですかね。あなたは?」
「俺様は今日は休みだぜっ!」
ケセセ、と特徴的な笑いと共に、青年は私の目の前へすっとお茶を差し出す。これを持ってきてくれたのかと感謝を述べると、青年はまた楽しそうに笑った。
「これからどこかへ行くんですか?」
いつもより気合いの入っている青年の服装を見て問いかけると、丁度タイミングよく二人の男が店内へと入ってくる。
その二人をちらりとみて、青年はあっさりと「じゃあな、」と言ってそちらへと駆けていった。三人はしばらく話したあと、こちらに手を振って連れ立って出て行った。それを少しうらやましく見つめていると、どん、と些か乱暴に目の前に食事が置かれる。
「ほらよ、」
「あぁ、ありがとうございます。」
伝票置いとくぜ、と言って、くるりとした前髪が特徴的な店員はつんけんしながら厨房へと入っていった。それと入れ替えに、ふわふわと笑う店員がこちらへこそっとやってくる。
「これ、シェフから!」
仕事頑張れ、だって!と笑ってデザートを差し出す店員に、シェフに有り難うと伝えてくださいとお願いして、ようやく食事に手を付ける。いつ食べてもあっさりとした味付けが美味しい。空腹に染み渡るような感覚に酔いしれながら、黙々と箸を進めた。
「ごちそうさまでした。」
レジ打ちをする店員にそういうと、少し笑って「ありがとうございました。」と返される。暖かい店内から一歩外へと踏み出すと、冷たい風が頬を冷やす。寒さに身を震わせながら仕事の残る会社へと、重い足を進めた。
「うわっ!!」
不意に後方から何かがなだれ落ちるような音がして、反射的に振り返ると若い男が持っていた紙を地面ばらまいてしまっていた。「最悪なんだぞっ!!」と騒ぎながら慌てて紙をかき集める男の所へ向かい、その紙を拾うのを手伝ってやる。
ようやく最後の紙を拾って彼の元へ届けると、男は太陽のような眩しい笑顔を輝かせて私の手をとり、ぶんぶんと勢いよく振った。
「すごく助かったんだぞっ!!」
ありがとう、と笑う男に、いえいえ、それほどでもありませんと返すが聞いちゃくれない。男は高いテンションのまま「これ、君にあげるんだぞ、是非行ってやってくれよ!」と言って私の手の中に数枚の紙を握らせ、大きく手を振って走り去っていった。
私はしばし呆然としたまま、突っ立っていたが冷たい風に我に返り、手の中の紙を見てみた。
「…紅茶バー?」
聞き慣れない単語に頭を傾げながら、紙の下にでかでかと書かれた"一杯無料"という文字を見つめた。なんだかよくわからないが、こんなに沢山貰ってよかったのだろうか。少し申し訳なくなりながら、チラシを折りたたんでコートのポケットへと滑り込ませた。
会社に戻って仕事に追われるうちに、すっかりそのチラシのことは忘れてしまっていた。
そのチラシに再び廻り逢ったのはそれから一週間後、仕事の帰り道でのことだった。寒い風が吹くなか、うっかり手袋を忘れてしまった私は、何の気なしにコートのポケットへ手を突っ込んだ。
すると、かじかむ指先に紙のざらついた感触がさわり、そのチラシを思い出す。そうだ、紅茶バー、そんなものがあるんでしたっけ。ふいに興味をそそられた私は、チラシに書かれた地図を頼りに、その紅茶バーなる店へと向かった。
幸い、チラシの一杯無料券は制限期間があるわけではないらしく、まだ使えるようだった。
「ここ、ですかね…?」
これは、まぁ、随分とレトロな。…レトロといっても少々レトロ過ぎるような気もしますが。ぼそっと心の中で呟きながら、ぎしぎし言う店の扉へと手をかける。まるで古い屋敷の扉を開けるかのような錆び付いた音を立てて、扉がゆっくりと開く。
中には、これまたアンティーク調の椅子やテーブルが並び、まるで中世ヨーロッパの様な雰囲気さえあった。
「い、いらっしゃい。」
ふいに、カウンターから堅い声が聞こえて、そちらへ視線をむけると店主と思わしき男が丁寧に綺麗な薔薇の挿絵が施されたカップを磨いていた。
年はおそらく同じくらい、外国人なのだろうか綺麗なブロンドの髪をしていた。
「…なにを飲む?」
しばしぼう、と立ちすくんでいると、店主がそっと尋ねてくる。わたしはそれにはっとしてカウンターの席に座ってから少し考え込んだ。紅茶バーという新しい雰囲気に誘われてきたものの、そもそも紅茶に詳しくはない。むしろ紅茶にどんな種類があるのかさえわからない。
「…オススメにするか?」
「あぁ、すみません。お願いします。」
店主は少しほっとしたような顔をしてから、わかったと呟いてカップを新たに取りだした。その流れるような動作をじっと見つめていると、少し困ったような視線を返されて、慌てて視線を外した。
「…お一人で経営を?」
そういえば、あのチラシを配っていた青年はどうしたのだろうと思い話しかけると、店主はあぁ、と言葉を漏らした。
「一人でだ。」
そうなんですか、と返すとまた静かな空気に包まれた。こんな空気は嫌いではない。むしろ落ち着くくらいだった。そっと店内を眺めていると、目の端に淡い色をともした花を見つけて思考がしばし停止する。
どうしたのでしょうか、なんだか懐かしいような。
変な感覚が胸の奥から沸き上がってきて、その花をじっと見つめていると、それに気付いた店主が口を開く。
「あぁ、綺麗な花だろ。」
「えぇ、なんて言う花なんですか?」
「アナスタシア。」
紅茶色の菊だよ、そう静かに呟いた店主の言葉に、変な感覚がぶわり、と身体中を駆け巡った。どこかで、どこかで聞いた。なんだか懐かしい感覚。それは、どこで…?
思考を巡らせる私の目の前に、店主が静かに湯気のたつ紅茶を置く。彼の綺麗な透き通る翡翠の瞳が私を射貫く。
「…失礼ですが、」
自分の意志とは関係なしに喉が震え、音を紡ぎ出す。
「わたくしたち、夢でお逢いしませんでしたか?」
END
ちゅーとハンパでごめーんなさい。
最初の後輩はただのモブ。
あとの人は察してください